羽左 第 7 話 羽右 <2年生>

仕事が忙しくてなかなか学校行事に参加できない瀬戸綾乃だったが、今年の体育祭だけは確実に参加することになっていた。

それは体育競技に出るためじゃなく、競技の合間のミニコンサートに出演するために、ちゃんとスケジュールに入れてあったのだ。

芸能コースを要するだけに、明光学園の在校生には現役アイドルが数多くいた。当初は、そんな子たちの普段の活動の発表の場所をということでミニコンサートが企画されたらしかった。

しかし、回を重ねるうちに、毎年、二年生に在学中のアイドルの中から、たったひとりが選出されて体育祭のアトラクションとしてミニコンサートを開くのが定例となっていた。

その選考基準というのが、人気だけじゃなく、歌唱力や表現力などが総合的に問われるために、選ばれるのはとても名誉なことなのだった。

そして、瀬戸綾乃が今年のミニコンサートのアーティストとして選ばれたのだった。

ただし、今年は観月唯香との間でかなり選考が揉めて、結局、瀬戸綾乃と観月唯香のジョイント・コンサートという思いがけず超豪華なものになってしまっていた。

だからもう僕は、今年は競技どころじゃない。心ここにあらずだから、出る競技、出る競技、散々で、異常に体育競技に燃える品田にマジでキレられていたりした。

そんな品田も、コンサートが始まってしまえば、僕への怒りもどこ吹く風。にぎり拳を突き上げて綾乃と唯香に声援を送るのだった。

ステージに二大ビッグアイドルが並び、歌を熱唱する。それはすごいことだ。

といっても、グラウンドの隅に作られた特設ステージで体操服姿の高校生たちの前で行なわれるミニコンサートだから、そのチープさは微笑ましい限りだ。

でも、その親近感がなんとも言えない。明光学園に通う者たちだけに与えられた幸せなのだ。

僕はふたりに向かって声援を送り続けた。

結局、今年の体育祭は、このコンサートがすべてだったような気がする。

競技の記憶はなんにもない。ただ、ステージで並んで歌っている綾乃と唯香の姿が目に焼き付いているだけだ。






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