羽左 第 12 話 羽右 <2年生>

三学期が始まって数日たったある日、学校の前に、また報道陣がたくさんつめかけていた。

ひょっとして綾乃が登校してくるのか、と思って急いで教室に行くと、待ちかねていたかのように岡村が僕に駆け寄って来た。

「瀬戸さんが今日から登校してくるらしいぞ」

やっぱりそうなんだ。

「じゃあ、仕事にも復帰するんだ?」

喜んでそう言うと、岡村は残念そうに唇を歪めて首を横に振った。

「しばらく芸能活動は休止して、学業に専念するんだって。今日発売の週刊誌に、学業を優先したいっていう綾乃のメッセージが独占手記の形で掲載されてて、朝からワイドショーはその話題で持ちきりなんだよ」

「学業に専念するって……」

綾乃は仕事が忙しくて遅刻や早退が多く、学校行事も参加できなかったりしてかわいそうだなと思っていた。

学業に専念するってことは、そういうことがなくなるってことだ。

いいことなのかもしれない。でも、なんか違うような気もする。

そのとき、急に外が騒がしくなった。

「来た!」

誰かが叫ぶと、みんな一斉に窓辺に駆け寄った。

まぶしいほどにストロボが焚かれていて、その中から揉みくちゃにされた綾乃が学校関係者に抱きかかえられるようにして校門をくぐって学校の中に足を踏み入れた。

以前から学校内でも注目される存在だったが、スキャンダルがあって以降の彼女の動向が話題になっていたために、生徒たちも初めて見る大スターのように遠巻きにしながら、ずっと綾乃の姿を目で追っている。

揉みくちゃにされた綾乃は、乱れた髪を気にしながら下を向いたまま校庭を横切り、校舎の中に消えた。

学業に専念するといっても、そんなに簡単なことじゃなさそうだ。






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