羽左
第 7 話
羽右

CDグランプリは瀬戸綾乃の新人賞がすべてだった。

ただ観ていただけなのに、かなり緊張していたようで、僕は品田と岡村といっしょに、そのあと、まったりと一年の終わりの数時間を過ごした。

きっと綾乃たちはいまごろ受賞パーティーだとか取材とかで大忙しなのに違いないと思いながらも、世間一般の普通の高校生である僕たちはミカンを食べながらゴロゴロしていた。

 そして、そのうちカウントダウンが始まって、さりげなく年が変わってしまった。

「おい、初詣にでも行こか?」

日付が変わり、新しい年になると、品田がボソリと言った。

「うん、そうだな。このいたいけな少年たちの輝ける未来を神様に祈るのも悪くはないな」

そう言いながら、岡村はもう身支度を整えている。

いつものことだが、僕の意見はどこにある?

でも、まあいいか。どうせ初詣には行くつもりだったんだし、と僕も立ち上がった。

「じゃ、行こうか」

神社は僕の家のすぐ近くにあった。子供のころから毎年、元旦にはそこにお参りに行っている。

普段はほとんど人気のない寂れた神社なんだけど、さすがに正月だけは賑わっていた。
それにしても、にわか信者がこんなにたくさん……と呆れていると、

「おい、あれ、美奈子ちゃんちゃうか?」

と品田が人込みの中に目聡く桜井美奈子を見つけた。

美奈子は家族と一緒に初詣に来ているらしかったが、僕たちの視線を感じて振り向くと、二言三言、両親らしき人となにか会話をして、僕たちの方に駆け寄って来た。

「おめでとう!」

「……え? ああ、ありがとう」

美奈子に祝福されて、わけもわからずお礼を言った僕は、後頭部を品田に殴られた。

「アホか!」

「痛てッ、なにすんだよ?」

「おまえが礼を言ってどないすんねん」

と品田。それに続いて、岡村が、

「礼を言うのは瀬戸さんだろうが」

「みんな、なに言ってるのよ? 正月に『おめでとう』っていうのは常識でしょ」

三馬鹿トリオを横目で見ながら、おかしくてしかたがないといったように美奈子は笑った。

そう言われて、そのことに初めて気がついた。

CDグランプリ新人賞の印象が強すぎて忘れていたけど、いまは正月で、だからこそ僕たちは初詣に来ていたのだ。

「ほんまや。やあやあ、おめでとう!」

「ほめでとうございま〜す」

「おめでとう」

照れ隠しもあって、僕たちは「おめでとう」を連呼した。

そして、僕たちは賽銭を入れて、鈴みたいな鐘みたいなものをガラガラ鳴らして、願いごとをした。

「なに、お願いしたん?」

品田が訊ねると、美奈子は一瞬考えるような表情になり、

「話したら叶わなくなりそうだから、秘密にしとくわ」

と言って微笑んだ。

それもそうだ。言葉にすると願いごとの力がなくなりそうだな、と思って僕も真似して秘密にした。

 本当はもう少し綾乃と親しくなれますように、とお願いしたんだけど……。





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